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メニューのないレストラン(第4話)


ー第四話ー

 えっと、それは…  エスプレッソ!!…… なんて来るわけないよな、、  と思ってボタンを押しました…  だって、わたしは今まで自分の願い事なんて  一度も叶ったことないんです。  いつだってそうなんです。  こうなればいいな~と思っても  実際に起こるのは最悪なことばかり…  だからわたしには思い通りのものなんて  運ばれてくるわけがないんです。  どうせ作る人が間違えて、  わたしの嫌いなミルクを入れるにちがいない。  ホットだって聞き入れられたかどうかわかりゃしない…  そんなことを考えていました 。  それに、実を言うと  エスプレッソが欲しかったわけじゃないんです。  あなたのような人と飲むには  エスプレッソ。とか言った方がカッコいいかな  と思っただけで  本当はそんな高尚なものは私には似合わない…  うふふ  それじゃあ、エスプレッソなんて来っこないわね  アイスカフェオレで正解だわ。  これでわかったでしょ  わたしがどんなにダメな人間か…  さあ、早くわたしの食べたい物を知っている人に  会わせて下さいよ  まぁまぁ、  今に来ますから。  そんなにあせらないことよ。  そんなことを言って、あなたはただ  わたしが食べるのをあきらめて  ここから出るのを引き止めたいだけなんでしょ!  あなたはいいですよ。  自分のイメージした通りのものが  ちゃんと運ばれて来たんですから…  あなたは幸運な人。  わたしは不運な人。  そういうことですよ…  あなたは不運な人なんかじゃないわ  じゃあ、幸運な人とでも言うんですか?  こんなわたしが…  いいえ。  あなたは幸運な人でも、不運な人でもないわ。  無責任な人よ。  無責任…?  ええ。  あなたは自分のイメージに対して無責任だから  イメージと違うものが運ばれてくるのよ。  わたくしはアールグレイをイメージしてボタンを押してから  ずっとアールグレイを飲んでいる自分をイメージし続けたわ。  運ばれてくるまでずっとね。  作る人が間違えるんじゃないか、とか  本当は別のものが欲しかったのに、とか  そんなこと一切考えなかったわ。  アールグレイのイメージに責任を持っていたのよ。  一方、あなたはどうかしら?  料理人が間違えて作るにちがいない。  相手に合わせて欲しくもないものを注文した…  全て、他人のせいにしてるじゃない?  確かに…  小さい頃、周りの大人たちにこう言われなかった?  ちゃんと挨拶しなさい。  お友達をたたいてはダメよ。  脱いだ服はたたみなさい。  ええ。さんざん言われました。  子どもはそうやって世の中のルールを覚えていくわよね。  子どもだけじゃないわ。  大人になっても、新しい仕事に就くと  接客態度や電話の応対、服装や髪型など  その会社のルールを学ぶでしょ。  そうやってわたしたちは  社会や組織の一員として責任ある行動をとることを  学ぶのよね。  「行動に責任を持つ」ということですね…

 その人はアイスカフェオレの横にあるコップを手にとり  水をちびりと飲むと  アールグレイのポットを持ち上げて  向かいのカップに注ぎ足しました。  そして、背もたれによりかかると  ふぅ~っと溜息をつきました。  あなたがわたくしの話を聞くのを  退屈だと思っているのは  いぇ、退屈だなんて…  その人はあわてて姿勢を正しました。  わたくしがあなたの胸の中に指をつっこんで  「退屈スイッチ」を押したからかしら?  だから、退屈だなんて…  あなたがとても疲れていて  全くこんな話に興味がなければ  退屈に感じるのは当然でしょう。  その時あなたは  わたくしがあなたを退屈させたと感じるでしょ?  えぇ、まぁ、それは…  でも、もしもあなたがとても元気で気分も良くて  この話に共感するとしたら  わたくしはあなたを退屈させることができるかしら?  ぃや、身を乗り出して聞くかと…  わたくしは同じ話をしているだけ。  退屈するかしないかは、あなたの選択なのよ。  あなたの感情ですもの、あなたが責任者なのよ。  それって、  「感情に責任を持つ」ということですか?  うふふ  おりこうさんだこと。  かっ、からかわないでください  その人は顔を紅潮させて、残りの水をぐびっと飲み干しました。  「行動」に責任をもつ。  「感情」に責任をもつ。  あとひとつ、とっても重要な責任があるわ。

 もうひとつの責任・・・

 その人は「もうひとつの責任」がなんであろうとどうでもいいと思いましたが

 それを悟られないように

 いかにも考えているふりをして

 エスプレッソ・・・

 エスプレッソ・・・

 とつぶやきながら

 エスプレッソの代わりに来たアイスカフェオレの  グラスについた水滴を指で撫で上げました。

 そうよ!それ、エスプレッソ!

 それがあとひとつの「責任」よ。

 ふは????

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