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カネーシャ(第1話)

金曜日、家に着くといつもと何かが違った。

ドアノブに手を掛けると、鍵が空いていた。

あれ、今朝鍵をかけ忘れたかな、、、

そんなはずはないんだけどな、、、

不思議に思いながらドアを少しだけ開けて中の様子を伺った。

特に変わった様子はない。

ただいま、

独り暮らしの部屋に投げかけてみた。

何の応答もない。

泥棒か強盗が潜んでいた時のためにドアを全開にして、

玄関から手の届く範囲の電気のスイッチを全てつけ、

携帯のビデオをオンにして、ピストルを構えるような持ち方で両手を突き出し、

恐る恐る靴を脱いだ。

誰かいますかー

捜索隊が遭難者を捜すような口調で、まるで自分の家に入るような気分がしない。

玄関とキッチン、ユニットバスが1つになった部屋の先にワンルームリビングがある。

ユニットバスのドアは乾燥させるためにいつも全開にしてある。

丸見えになっているバスルームに人影はない。

残るは奥のリビングの扉を開けて何事もなければひとまず安心できる。

コンコン、、

とりあえず、扉をノックしてみた。

もしも泥棒がいたら、今のうちにベランダから逃げてくれ

鉢合わせして怖い目に遭うより、何でも盗って逃げてくれ

そう願いながら反応を待った。

何の音もしない

やっぱり今朝鍵をかけ忘れたのかな。。

そう思ったとたんに今までの緊迫感がやわらいだ。

仕事の疲れを癒すために早くベッド兼ソファーに身を投げ出したくて

いつものように扉を開けた。

おかえり

ぎゃ!!、、

わたしがくつろぐべきベッド兼ソファーの上に

見たことのないような、どこかで出会ったことのあるような

悪者のような、いい人のような、

男のような女のような

年寄りのような若いような

親しみがわかないかと言えばどちらかと言えばわくような

なんとも言えない人物が 当たり前のように壁に背をもたれてみかんを食べながら

ニンマリと微笑んだ

あ、、あの、、えと、、ただいま?

あれ、、部屋間違えたかな?

意表を突く展開に頭がうまく回らず、とりあえず、変な挨拶をして

扉を閉め直し、脳裏に残るみかんの人を眺めながら

えーと、えーと、だから、、わたしはどーするはずなんだ?

全開にしてある玄関を抜けて逃げるべきか?

再び扉を開けてみかんの人が誰なのか確認するべきなのか??

録画中の赤いランプが点灯するリズムがまさしく心臓の心拍リズムを現していた。

みかん、あと一個でなくなるでー

食べてまうよー

呑気な声が扉の向こうから聞こえた。

あの、えと、みかんは、、どうぞ食べてください

それから、えと、みかん、、わたし、みかん買ってないし、、

なんでみかんがウチに、、

いえ、それより、なんであなたがウチに、、、

扉越しに今頭にある質問を精一杯ぶつけてみた

ナンデアナタガウチニ、ってキミ、

自分が呼んだんちゃうのん

え、わたし? 呼んでません!

確かに呼ばれたで

そんな、男か女か悪もんかいいもんかわかんない人、わたし呼んでません!

んなことあらへんやろー

ワシがビーチで日光浴しとったらやなあ

突然呼び出しかかってん、仕事やでーって

んで、どんなご要望でっかって聞いたら

なんやいろんなもんがちゃんぽんになった格好で行けて言われたんや

な、、なんの話ですか、、?

キミ、今日なんか唱えたやろ?

はぃ? 唱えた、、? 普通に仕事してましたが。

その仕事中にやなあ、なんや頭抱えて泣きそうな顔してブツブツゆーてたやろ、

・・・!

あ、そう言えば、頼まれてた仕事をすっかり忘れてて5分前に気づいて青くなって、、、

おお、それや、で、なんて言うたん?なんて唱えたん?

えと、、、テンノカミサマホトケサマゴゼンゾサマニオシャカサマ…

聞こえひんよ、大きい声で言うてみ

「天の神様仏様、ご先祖様にお釈迦様、アラジン、オバQ、ドラえもん、ついでにハクション大魔王、どうかわたしを助けてちょんまげおさるのマーチ」と、、、

それや!その、神様仏様お釈迦様はいいんや、

あとのアラジン?オバQ?ドラえもんにハクション大魔王やて?

そいつらの格好させられやな、頭ちょんまげなってるし、オシリ赤いし、

どないなっとんねんっちゅう話やねん

玄関を抜けて逃げ出す選択肢はもはや頭から消え去り、

わたしは再び扉を開けて、ベッド兼ソファーの方に視線を向けた。

アハハ、、確かに、、全部混ざってる

笑い事やないて!

こないけったいな格好したんは初めてや、なんとかしてくれゆーたら

まあまあ、ちゅーてみかん渡されてごまかされたんや

で?

・・・で?て?

で、なんでココに、、

そらアンタ、こない格好でドコ行くちゅうねん

一応会社行ってな、キミの名前ゆーたんや。そしたらあれや

名前最後まで言い切る前にやな、警備のおっさんに首根っこ掴まれて追ん出されたねやんか

そんで、おーい、ご要望叶えられひんし、帰してくれー

ちゅーて空に向かって叫んだら

本人の家に行けちゅーて、、気づいたらここでみかん喰うとったわ。

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