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壺を売る女


        壷を売る女

ある国に壷売りの女がいた

女は壷を売って生計をたてていた

女の売る壷は、綺麗な装飾がほどこされ

それはそれは見事な壷だった

夜になると女の壷は妖艶な光を放ち

男たちを虜にした

女は食う事には困らなかった

毎夜、壷を持っては酒場を練り歩き

抱えきれない程の金を手に入れた

女はその金で壷を飾る装飾品を買った

壷が金を呼び、金が壷を着飾らせた

女は世界中を魅了しようと

旅に出ることにした

女は町から町へ

国から国へと壷を売り歩いた

ある日、女が国境を越え、隣りの国に入ると

そこでは見た事もないような色の壷が売られていた

その国では色が大切だった

魂の根源が求める色の壷に出会うことを 

その国の人々は喜びとしていた

ボコボコと石が貼付けられ

様々な色がごちゃ混ぜになっている女の壷は見向きもされなかった

女はおもしろくなかった

ふん!この国の人たちは、わたしの壷の美しさを理解できないんだわ

こんな国にはもう用はないわ

女はその国を後にした

次の国に行くと

今度は女の壷と似たような壷がたくさん売られていた

人々は少しでもたくさんの装飾品の付いた壷を欲しがった

女は胸をそらせた

わたしの壷を見てちょうだい

わたしの壷が一番美しいわよ

女の壷はそれなりに売れた

だが、より綺麗な壷がたくさんあることに

女は嫉妬した

女は必死に壷を飾った

一番売れている壷をマネて

より装飾品をくっつけて

壷を高く掲げた

入ってきた金はすべて壷に使った

ときには店先から宝石をくすねることもあった

壷がすべてだった

壷を飾ることしか女の頭にはなかった

しかし、女の壷が一番人気になることはなかった

女は自分より綺麗な壷を見て鼻をならした

ふん!こんな壷が人気だなんて、

この国の人たちの目はどうかしてるわ

わたしのことをバカにして! 

こんな国、わたしの方からお断りよ!

女はその国を後にした

次の国に行くと

そこでも女の壷と似たような壷が売られていたが

それほど着飾ってはなかった

ここならわたしより綺麗な壷はないわね

わたしの壷が一番売れるにちがいないわ

女は堂々と壷を道に並べた

そこへ、油売りの商人がやってきた

油を入れる壷を探しているのですが

あなたの壷は何でできているのですか?

ええ、わたしの壷はこのように珍しくて美しい宝石でできていますことよ

女は上目遣いに商人を見つめ、壷を差し出した

いえいえ、飾りの話ではなくて、

この壷は、どんな素材でできているのですか、と訊いているのです

えっと、、この壷が何でできているのかは…

そ、そんなことどうでもいいじゃありませんか

こんなに美しい壷は他では買えませんよ

女はその場を取り繕った

でも、素材を知る事は重要です

油を入れるのにふさわしい材質でなければ買う訳にはいきませんから

女は自分の壷が何でできているのか知らなかった

そんなことには興味がなかった

綺麗に飾りさえすれば、壷の素材なんて何でもよかった

あなたにはわたしの壷は売らないわ!

文句があるならよそで買ってちょうだい!

女は油売りの商人を追い払った

その後も、来る人来る人、すべての人から

その壷はどんな素材でできているのですか

と質問を受けた

女はこの国が嫌になった

壷の飾りよりも素材を気にするなんて

この国の人たちは一体何を考えているのかしら

わたしの壷の美しさを疑うなんて、こんな国わたしには合わないわ

女は国を後にした

みんなわたしを認めてくれない

みんなわたしをバカにする

みんなわたしを疑う

旅に出る前はよかったよな

みんながわたしの周りに寄って来て

わたしの壷を褒めてくれた

なんの不自由もなく暮らせた

あの頃の生活にもどりたい

女はかつての自分が羨ましくなった

女はとぼとぼと歩いた

あてもなく歩いた

歩き続けていると、国境が見えた

女はその国に入っていった

そこでは、何の飾りもない、素材そのままの壷が売られていた

まあ、この国はなんて貧しい国なんでしょう

ここではわたしのような美しい宝石をつけた壷はさぞ目立つことでしょう

わたしの壷が一番美しい証明がこれでできるわ

女は一番人通りの多い市場の路肩に店を開いた

となりで店を開いている男が微笑みかけてきた

きれいな壷ですね

何を売っているのですか?

何を?って、壷を売っているに決まってるでしょ!

女は怪訝そうに男を見やった

男はそれ以上何も言わなかった

一人の客が男の売る壷の中をのぞいて

男と何やら話を始めた

あたりを見渡すと

壷を売っている店では、買い物客が皆、壷の中をのぞいている

きっと、底に穴が開いてないか確かめてるんだわ

装飾のない素焼きの壷しか作れない貧しい国ですもの、仕方ないわね

女は自分の壷の底が割れていないことを確かめると

満足げに腕を組んだ

そこへ、一人の少年が女の店にやってきた

少年は女の壷の中をのぞくと驚いて叫んだ

この壷には何にも入ってないよ!

市場の買い物客たちは一斉に女の方を見た

この壷には何も入ってない!この壷は空っぽだ!

少年は叫びつづけた

な、なんなのよ!あんた!

あたしは壷を売っているのよ

あんたみたいなガキにはこの壷の魅力はまだわからないと思うけどね!

空っぽ売りの中身無し〜!

少年は歌うように手拍子を打った

あっち行きなさいよ!

営業妨害で訴えるわよ!

そこへ老婆が現れて

女の壷に小石を投げ入れた

女の壷はガシャンと割れて粉々になった

なにすんのよ!わたしの大事な壷、どうしてくれるのよ!

弁償しなさいよ

おやおや、お前さんの壷はこんな小石を落としただけで

割れちまうんだね

中身はいったいどうなっているんだね

老婆が女の壷をのぞくと壷の中身はもちろん空っぽで

内側の壁は手入れされたこともなく薄汚れていた

これじゃあ、いくら外側を飾っても

買う者はいやしないよ

この国ではみんな壷は持っている

お前さんのような宝石はひっついていないがね。

壷に宝石なんて必要ないのさ。

大切なのは中身だからね。

壷の中身を満たすためにこうして市場にきているんだよ

な、中身なんて、買った人が好きなモノを入れればいいでしょ!

わたしは綺麗な入れ物を売っているんだから

それでいいじゃないの

綺麗な入れ物を欲しがる人は

自分がどんなに素晴らしい壷を持っているか

見ようとしない人だよ

人間はみな、生まれたときから自分専用の壷を持っているんだよ

その壷に何を入れるかで人生の深みが決まるんだ

お前さんのように空っぽの壷を磨いてるうちは

壷の底が抜けてることも見抜けないだろうがね…

女はさっき確認した壷の底を再び触ってみた

ここの市場の人たちは壷の中に一体何を入れて売ってるんですか?

女はとなりの男の壷を指差した

ふふふ

知りたければお前さんの売っている壷をすべて自分の手で割りなさい

そしてその宝石たちを土に返してあげなさい

そ、そんなもったいないこと、、できるわけないでしょ

何考えてるの!この年寄りは!

宝石を土に捨てろですって!ふざけんじゃないわよ

いくら使ったと思ってるのよ、この宝石を集めるために…

ふふふ

お前さんがわたしの言う通りにしたら

壷の中身を教えてあげよう

壷の中身はそんなちっぽけな宝石たちよりも

ずっとずっと価値のあるものだよ

ほ、ほんと?

もっと高価なものなの?

ま、高価という言葉が適当かどうかはわからないがね

お前さんがやり終えた頃に、また現れるよ

老婆はふふと笑いながら杖をつきながら去って行った

女は大きな石を拾ってくると

それを肩の高さに持ち上げ、壷に向かって投げつけた

ガシャン、ガシャン、…

次々に壷を割った

壷を割ることに不思議と未練はなかった

むしろ気持ちよかった

すべての壷を割り終えたとき

粉々になった焼かれた土と無数の宝石が足元に散らばっていた

女は宝石を拾い集めた

そして宝石を捨てるために穴を掘った

これを捨てろって、そんな、、無理だわ…

女は宝石の数と同じだけの石ころを入れ、土をかぶせた

老婆は二度と女の前には現れなかった

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