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目覚まし時計 其の二

「今朝、僕の目覚ましは鳴らなかった」

で始まる二つのストーリー

其の二。

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今朝、俺の目覚ましは鳴らなかった。

俺は大抵、目覚ましの鳴る1分前に目が覚めて

目覚ましが鳴ると同時にベルを消すのが常だった。

それなのに今朝はいつまで待っても目覚ましが鳴らない。

おかしいな、と思って目を開けて時計を見ると。

あるべき時計の位置に、大きなクリクリ目玉がふたつ。

うっっわあ!

俺は驚いて飛び起きた。

おはよう!どんな夢だった?!

クリクリ目玉がニコニコしながら俺に言った。

え?なっ、なに、お前、

俺は壁に背をくっつけて体育座りをして

首まで布団を引っ張り上げ、素っ頓狂な声を出した。

おはよう!おかえり!

アタシたち、あなたがもうすぐ起きるって聞いて集まって来たのよ。

アタシタチ?

見回すと、なんと!同じようなクリクリ目玉が部屋中にいるではないか!

ぎゃっ!!!

俺は首まで引っ張り上げた布団をさらに引っ張り上げ

頭まですっぽりかぶった。

なんなんだ、この状況は、、

えーと、えーと、、

そうだ、これは夢にちがいない。

そうだ、目覚ましだってまだ鳴ってないじゃないか

だからこれは夢なんだ、うん。

落ち着け、俺。

これは夢だ。だから怖がることはない。

起きよう、起きよう、

目覚めよ!俺!

ねえねえ、どんな夢だったのか早く聞かせてよう

クリクリ目玉たちが布団の向こうでワイワイ聞いてくる。

どんな夢だったのかって、これが夢なんだよ、これ!

お前たちが夢なの!早く消えてくれ!

俺は起きたいんだ、

もうそろそろ起きる時間のはずなんだ

早くちゃんと起きないと会社に遅刻しちまう

おい、お前ら、早く消えてくれないか

俺は布団をかぶったまま叫ぶように言った。

うふふ、やっぱりみんな最初は同じこと言うよね。

クリクリたちのクスクス笑う声が妙に俺を落ち着かせた。

俺は少し下げた布団から全然クリクリしていない目玉をそろりと出して

クリクリたちを見渡しながら聞いた。

最初はみんな同じこと言うって、どういう意味だ?

クリクリたちはこの上なく幸せそうな顔、いや、目玉を輝かせてこう言った。

あのね、あなたは今、本当の意味で起きたの。目が覚めたの。

今までずっと眠っていたのよ

ん?よくわからん。俺は確かに眠っていた、昨日の夜から。

だから今目が覚めたはずなんだが、まだ夢の中にいるみたいだ、

でもこれが本当の意味で起きたっていうのは?どういうことだ?

俺はこれが夢か現かわからぬまま、ちゃんと起きなくてはと、ほおをつねったり

膝をつねったりしながら言った。

クリクリたちはこの問答に慣れっこのような余裕ぶりでさらに付け加えた

えとね、超わかりやすく言うと、

あなたは死んだの。

死んで、ほんとうに起きたの。

はあ??

俺が、死んだ?

死んで、起きた?

そう。

あなたたちが「死ぬ」と表現する現象は

実は、「目が覚める」という現象なの。

あなたたちが生きて人生を送っている時間は

実は、眠って夢を見ている時間なのよ。

ええ?!

俺はちょっと怒って抗議した

だって、俺、23年間、ちゃんと生きてたぜ

毎日寝て夢見て、起きて幼稚園行って小学校行って、中学高校大学行って

社会人になったんだ

親父もお袋も兄貴も妹もいて、友達や恋人だっていたんだぜ

夢だったら23年間も一貫したストーリーを見られるわけないじゃないか

クリクリたちは俺の抗議も想定内という感じでウキウキした調子でこう答えた

人間界で23年だろうと50年だろうと80年だろうと

それは人間が決めた時間という概念なの。

魂には時間という概念が当てはまらないから

何年だって眠っていられるのよ。

そして眠っている間に見る夢を栄養にして成長するの

タマシイ?

俺は改めて魂という言葉をじっくりと考えながら発音してみた。

そう、タマシイ。

あなたは今、夢から覚めて魂だけの姿に戻ったのよ

今はまだ人間の形をしているけど

じきにアタシたちと同じ姿に戻るわ。

てことは、お前ら、もしかして、タマシイ?

ピンポーン!アタシたち、タマシイ!

タマタマしてるでしょ、ほら

クリクリたちはピョンピョン、玉のように飛び跳ねて

玉、玉、タマシイ、玉、タマシイ~♪と踊り始めた

わ、わかったからもう踊らんでいい。

お前らほんと、ノーテンキというか、お幸せそうだな。

だって、タマシイはシアワセで出来てるんだもの!

タマシイだけになったらシアワセ以外感じられないのよ

そうなのか、

じゃあ、俺ももうすぐシアワセのタマタマになるのか?

そうよ!

でもその前にやることがあるわ

クリクリたちはそう言うと俺の周りにドッと詰め寄ってきた

ち、近いって!もっと離れろや

やることってなんだよ

しかも俺、なんで死んだの?

死んだ覚えないんだけど、まだ23才だし。

俺は健康体で、死ぬような原因は見当たらないと胸を張った。

あなた、自分がなんで死んだか知らないの?

あなた普段から寝相が悪かったでしょ

そしてよくベッドから転げ落ちてたでしょ?

クリクリは占い師のような目つきで言った。

ああ、

しょっちゅう落ちてた。

それがなに?

それが、今回は落ちた時、打ち所が悪くて、、

ぅぉえええ!!

まさか?!それで??

ベッドから転げ落ちて?!

そ、そんなアホな死に方しちゃったの俺様?

ププッ

あ!今笑っただろ!

タマシイのくせに!シアワセのカタマリのくせに

人の不幸を笑ったな!

いえいえ、アタシたちはシアワセしか感じないから

そんなあなたの最期にも幸せを感じて笑ってしまったの。悪気はないわ。

くそっ

で、お前らみたいなシアワセの塊になる前にやることってなんなんだ?

俺はおちょくられていることに少し嬉しさを感じつつも

やらないといけないことが気になって話を戻した。

そう、どんな夢を見ていたのか、アタシたちに教えてほしいの!

それが、やらないといけないこと。

それだけ?

そう、人間界でどんな夢を見てきたか、体験をシェアすることが栄養になって

アタシたちタマシイは成長できるの

体験した本人は目覚めた時に迎えてくれたタマシイたちに話すことで

一回り成長したタマシイの姿に戻れるのよ

へえ、そうなのか

じゃあ、俺の生きてた頃の話をしてやるよ

何から話そうかな

うんうん、聞かせて聞かせて~

クリクリたちは目をキュルキュル回しながら俺の膝や肩に乗ってきた

あ!その前に、俺、一つだけ、どーしても気になることがあるんだ

俺は心残りになっているあの事を言ってみた

俺、毎朝必ず目覚ましが鳴ると同時に消す習慣がついてただろ?

今朝はそれ、やってないんだよ

やらずに死んじゃったんだよな

だから、今頃、目覚ましが鳴り続けてるんじゃないかって

気になって気になって、このままじゃあ成仏できねーし

目覚ましがどうなってるかだけ、ちょこっとだけ、夢の世界に戻って

確認して来たいんだけど、そんなことってできるのかな

クリクリたちは一瞬とまどって、何かゴソゴソとやったあと

いいわよ、本当はダメなんだけど

目覚ましが鳴ったままではシアワセのタマタマになれないもんね

ちょこっとだけ、行ってきていいよ

アタシたち、ここで待ってるから、戻ってきたら夢の話、必ず聞かせてね

クリクリたちは俺が夢の世界に一瞬だけ戻ることを許可してくれた

ジリリリリリリー!!

案の定、目覚ましが鳴り続けていた

あーあ、このままじゃ一人暮らしのこの部屋で

電池がなくなるまでリンリン鳴りっぱなしになるとこだったぜ、

せめて目覚ましを消してからあの世へ行かないとな。

俺は手を伸ばして目覚ましのベルを止めた。

と同時に目が覚めた。

あれ?ここは?

クリクリたちは?

シアワセのタマタマは?

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