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クスリ

先生、ワシは死んでしまうんですかのぅ。

死にますよ、必ず。

やっぱり。

ボクも死にます、必ず。

いや、そういう意味じゃなくて、ワシはもうすぐ死んでしまうんですかの。

死んでしまいそうな気がするんですか。

ええ。

どうやって死んでしまう気がするんですか。

殺されるような気がするんです。

誰かがワシを殺しに来るんです。

命が狙われてると思っているんですね。

いや、思っとるんじゃのーて、本当に命が狙われとるんです。

そうですか。それは恐怖ですね。

だからワシはこうして武装しとるんですよ。

いつ襲われても立ち向かえるように、

なんなら先制攻撃できるように、いつも準備万端です。

なるほどね。それは大変な苦労ですね。

疲れるでしょう、いつも緊張してなくちゃならないんだから。

はい。だからね、先生

ワシはもっと強力な武器が欲しいんですよ。

例えば。

例えば、持っとるだけで相手を威嚇できる武器。

これを持っとれば絶対に襲われんくらい強力な武器です。

なるほど、そんな武器があったら百人力ですね。

先生、なんとかなりませんかのう。

ボクは医者なのでね、武器は渡せませんが

そういう薬なら渡せますよ。

あるんですか、そういう薬。

ええ、あるんですよ。

私が開発したんですがね、まだ国に認可されてないのでね、

秘密にしていてくれるなら、あなたにだけ特別にお渡ししますよ。

本当ですか、先生。

ええ、本当です。

その代わり、絶対に秘密ですよ。

秘密を守れる自信がなかったら今のうちに言ってください。

この話はなかったことにしますから。

守りますよ。絶対に誰にも言いません。

そうですか、それでは処方箋を書きましょう。

楽しみじゃのう、先生、それってどんな薬なんですか。

少しお待ちくださいね、今持ってきますから。

キミ、すまない、アレを持って来てくれないかい。

先生、薬局でもらうんじゃないんですか。

さっきも言ったように、この薬はまだ認可されてない秘密の薬なんですよ。

だから薬局には置いていません。

今、看護師さんが持ってきますから。

先生、持って参りました。

おお、ありがとう。

お待たせしました。これがその薬です。

おーー、なんかいかにも効きそうな感じの錠剤ですな。

今から用法を説明しますから、よく聞いていてくださいね。

はい、先生。

これはですね、朝昼晩、一日三回、一錠ずつ服用してください。

覚えやすいように食後に飲むといいでしょう。

はい、普通の薬みたいに飲めばいいんですね。

ええ、でもこの薬は普通の薬と違って飲んだ直後から効果が現れます。

どうなるんです?

これはですね、飲んだ人に効力があるのではなくて

飲んだ人が接する人に効力があるんです。

はあ…、どういうことですか?

こういうことです。

あなたがこれを飲みますね。

そうすると、あなたの目の前にいる人が

あなたのことをすごく強い人だと錯覚するんです。

へえー。

あなたを攻撃しようと思う人も尻尾を巻いて逃げてしまうくらい

あなたのことを、とてつもなく強い人だと錯覚するんですよ。

ほんとですか!

ええ、試しに今、一錠飲んでみますか。

はい、試してみます。

お水、どうぞ。

あ、どうも。

先生、この看護婦さん、べっぴんさんじゃのう。

看護婦じゃなくて看護師って呼ぶんですよ、最近は。

それより、さ、飲んでみてください。

ゴクリ。

ガチャガチャガッチャン!

す、すみません。

あ、あまりにもこの患者さんが強そうなので

び、びっくりしてしまいました。

うわ!あなた、本当にボクの患者さんですか。

こ、こんな強くてたくましい方は初めて見た。

な、なんでそんなに強い方が、武器なんか持ってるんです?

お、これか、そうじゃのう、

急にそんなこと言われてものう

は、外してください、そんな怖いもの。

あなたはあなただけで充分強いですよ。

それに、何も持たない方がよっぽど強く見えますよ。

そうですか。

じゃあ、ちょっとこの武器、外してみます。

うわーーー、すっすごい!カッコいい!

あなたみたいな強くて頼りがいのある方は本当に初めて見ました。

ボクの患者さんだなんて、信じられませんよ。

先生、ホントですか。

本当にワシは強そうに見えてるんですか。

本当ですとも。

なあ、

ええ、この患者さんは今まで私が出会った人の中で

一番強くて優しそうです。好きになってしまいそうですわ。

本当ですか。

すごいですね、この薬。

先生、ワシはこのまま帰りますよ。

この薬、また夜に飲めばいいんですね。

ええ。

一日三回欠かさずに飲めば効力はずっと持続したままですから。

ほんとに、ほんとに武器を持たないで外に出ても狙われませんかね。

狙われるわけないじゃないですか。

あなたのような強い人を誰が攻撃するんですか。

本当ですか。

念のため、明日また診察に来て下さい。

わかりました。

ありがとうございます。

お大事にどうぞ。

先生、今の患者さん、明日また来ますかしら。

来るさ、必ず来る。

ー翌日ー

せ、先生!この薬、すごいですね!

帰り道、誰もワシのことを狙って来んかったし、

家に帰ったらですね、

家族が武装してないワシを見てびっくりして。

でも喜んでくれたんですよ。

父さん、すごい!この方がよっぽど男らしいって。

そうでしょう、そうだと確信してましたよ。

この薬は本当によく効くんです。

ええ、女房なんかアレですよ。

何年、いや、何十年か振りにすり寄って来て

あはは。ゆうべはもう…、あはは。

まあ、悔しいわ。

わたし、せっかくあなたのこと好きになりかけていたのに。

奥様には敵いませんものね。

電車の中でもですね

いつもなら戦闘態勢でいなきゃならんのですが

誰も攻撃的な視線を送って来んのですよ。

それはよかったですね。

予想以上の効果だ。

これも全て、あなたがちゃんと薬を飲んだおかげですよ。

これで会社にも安心して勤められます。

先生、この薬、いつまで飲めばワシは薬なしでも生きられるんですかね。

そうですね。これから一緒に様子をみていきましょう。

薬は二週間分お渡ししますから

次は二週間後にまた来てみてください。

はい、わかりました。

くれぐれも、飲み忘れないように。

それから、秘密。秘密ですよ。この薬のことは。

わかっとりますよ、先生。

気になることがありましたら二週間以内でも

構わず来て下さいね。

お顔、見れたら嬉しいですもの。

べっぴんさんの看護婦、いや、看護師さんに

そう言われちゃあ、かなわんなあ。

ワシもこれから人生楽しまんとのう。

そうですよ、せっかく生まれてきたんですもの。

楽しんで生きなくっちゃ。

じゃ、先生、看護師さん、また来ますけえ

よろしくお願いします。

今日はありがとうございました。

ええ、お大事に。

お大事にどうぞ。

先生、大成功ですね。

おう、君の演技もなかなか迫真に迫っていたな。

うふふ、先生の方こそ、顔色まで変えて。

患者さん、完全に信じ込んでいましたね。

早速プラシーボ薬について報告書を書かなければだな。

ええ。

ところで先生、今夜は集まりですよ。

そうだな、秘密結社の集まりだ、花は用意してあるのかい。

ええ、ちゃんと用意してありますわ。

表向きは「押し花同好会」ですものね。

君は優秀なパートナーだ。

これからもっともっと大掛かりな計画にとりかかるからな

君の助けがより必要になる。

よろしく頼んだぞ。

ええ。地球から武器弾薬を全てなくすまで

先生の右腕になりますわ。

秘密結社の仲間とも協力し合って使命を果たしましょうね。

そうだな。

今夜の報告は君が指揮を執ってくれ。

はい、承知いたしました。

今夜のテーマは

『プラシーボ効果で武器は手放せる』

にしましょうか。

ああ。

ところでこの服装、草食系男子に見えるかな、俺。

見えますとも。

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